「生前に家を建てる資金を出してもらった」「特定の子供だけに開業資金を出した」……。 相続が発生した際、こうした生前贈与が原因で「公平に分けるべきだ!」と兄弟間でトラブルになるケースは後を絶ちません。
法律上、特定の相続人が受け取った特別な利益を「特別受益」と呼びます。 今回は、遺産分割トラブルの第2弾として、特別受益の基本と、2023年4月に施行された「持ち戻し期間の10年制限」について分かりやすく解説します。
そもそも「特別受益」と「持ち戻し」とは?
相続人の間で公平を図るため、被相続人(亡くなった方)から生前に特別な贈与を受けていた場合、その分を遺産の先払い(持ち戻し)とみなして相続分を計算し直す仕組みがあります。
特別受益にあたる主なケース
・住宅購入資金の援助や不動産の贈与
・結婚資金や支度金(極端に高額な場合)
・事業資金・開業資金の援助
・特定の子供だけに支出された学費(医学部など高額な私立大学の学費など)
※日常的な生活費の支援や、通常の範囲内の入学祝いなどは特別受益に当たらないのが一般的です。
【事例】昔買ってもらった家がトラブルの原因に…
【ケーススタディ】 被相続人:父 相続人:長男・次男(2人) 遺産:現金 3,000万円
20年前、長男は父から「住宅購入資金」として2,000万円の贈与を受けていました。 父が亡くなり、遺産分割協議を始めたところ、次男がこう主張しました。 「お兄ちゃんは昔2,000万円も家代を出してもらったんだから、今の遺産3,000万円は全部僕がもらうべきだ!」
このように、過去の贈与を遺産に足し戻して計算し直すことを「特別受益の持ち戻し」と言います。
重要】2023年4月施行!「10年の持ち戻し制限」とは?
これまで、遺産分割協議における特別受益の持ち戻しには期限がありませんでした。そのため、「30年前の住宅資金」や「40年前の開業資金」まで持ち出され、協議が泥沼化することが頻繁にありました。
しかし、2023年(令和5年)4月1日施行の改正民法により、大きなルール変更が行われました。
変更点:遺産分割協議での持ち戻しは「原則10年」まで
生前贈与から10年経過した後に発生した相続については、原則として過去の特別受益を遺産分割協議で考慮(持ち戻し)することができなくなりました。
10年制限のポイント
相続開始(死亡)から遡って10年以内にされた生前贈与が持ち戻しの対象。
10年より前の生前贈与は、遺産分割における持ち戻し計算から除外される。
目的: 昔の贈与に関する証拠探しの泥沼化を防ぎ、遺産分割を早期に解決させるため。
先ほどの事例で考えると…
長男が家を買ってもらったのが20年前(10年以上前)であり、相続発生が2023年4月以降の場合、原則として次男は「20年前の2,000万円を持ち戻して計算しろ」と遺産分割協議で主張できなくなります。
ここに注意!10年過ぎていても持ち戻される例外
「10年経てば何でもノーカウントになる」と安心するのは危険です。以下のような例外や注意点があります。
遺言書や遺贈(遺留分侵害者への請求)
遺留分(法律上最低限保障される取り分)の計算における生前贈与の持ち戻し期間は、相続人に対しては10年(相続人以外は1年)です。ただし、当事者双方が遺留分権利者に損害を与えることを知って行った贈与などは例外となる場合があります。
「持ち戻し免除の意思表示」がある場合
被相続人が「この贈与は遺産から引かなくていい」と明示・黙示に意思表示していた場合は、期間に関わらず持ち戻し計算はされません。
施行日前の経過措置
法改正の施行(2023年4月1日)前から発生している相続などについては、一定の猶予期間(経過措置)が設けられています。
まとめ&対策:生前贈与をする・受け取るときのポイント
特別受益による親族間の争いを防ぐためには、生前の対策が不可欠です。
遺言書を作成しておく
「長男に贈与した住宅資金は持ち戻しを免除する(持ち戻し免除の意思表示)」旨を遺言書に明記しておけば、残された子供たちの間での争いを未然に防ぐことができます。
贈与の記録・契約書を残す
いつ・いくら・何の目的で贈与したのか、10年制限の観点からも日付のわかる記録を保管しておくことが重要です。
遺産分割協議で「昔の生前贈与」をめぐって話がまとまらない方、あるいは生前贈与と遺言書のセットで対策をしておきたい方は、お気軽に当事務所までご相談ください。

