遺産分割トラブル事例 Part 5:親の預金の使い込みを疑われた場合

親が亡くなった後の遺産分割で、最も泥沼化しやすいのが「使途不明金(使い込み)」をめぐるトラブルです。

同居して介護をしていた相続人や、親の金銭管理を手伝っていた方が、他の相続人から突然「口座から勝手に引き出されたお金がある」「隠さずに吐き出せ」と疑いをかけられてしまうケースは後を絶ちません。

身に覚えがない(あるいは正当な理由で引き出した)にもかかわらず犯人扱いされるのは精神的にも非常につらいものですが、感情的にならず法的に正しい手順と証拠で反論することが重要です。

今回は、使途不明金を疑われたときの具体的な対処法と、自身の身を守るための防衛策をわかりやすく解説します。

もくじ

事例:親の介護をしていた長女が疑われたケース

相談内容

亡くなった母(享年85)と同居し、数年間介護を続けてきたAさん(50代)。 母の死亡後、別居していた弟から遺産分割協議の席で突然こう切り出されました。

弟:「母さんの過去5年分の通帳を見たら、毎月20万円以上現金が引き出されている。母さんがこんなに使うわけがない。姉さんが勝手に自分のふところに入れたんだろ!全額返すまで遺産分割には応じないぞ!」

Aさん:「施設代や医療費、毎日の食費や日用品、母に頼まれた買い出しに使っていただけ。自分のために使ったことなんて一度もないのに…」

Aさんのように「親のために使った」としても、証拠がなければ「使い込んだ」と決めつけられてしまうのがこのトラブルの恐ろしいところです。

なぜ「使途不明金トラブル」が発生するのか?

主な原因は、「金の使い道」と「親の生前の状況」が他の相続人に見えていないことにあります。

代理での引き出し

親の足が弱り、代わりにカードや通帳で現金を引き出していた。

生活費・介護費の立替

施設の支払いや医療費、日用品の購入に充てていた。

生前贈与・お小遣い

親から「感謝の気持ち」「孫のお祝い」として受領したが、書面が残っていない。

認知機能の認識ズレ

別居している相続人が「親はまだ元気だった(お金を使う必要がない)」と思い込んでいる。

使い込みを疑われたときの4つの対処ステップ

不当な疑いをかけられたら、次の4ステップで冷静に対応しましょう。

Step 1: 使途(何に使ったか)を示す証拠を整理する

「使っていない」と口頭で主張するだけでは相手は納得しません。引き出した金額に見合う支出の裏付けを集めます。

集めるべき証拠の例

・医療費・介護費: 病院や薬局の領収書、介護施設の請求書・明細書

・生活費・日用品: スーパーやドラッグストアのレシート、公共料金や固定資産税の納付書

・大きな買い物: 実家の改修費、介護ベッド等の購入・レンタル領収書

※ポイント: レシートが全額分残っていなくても、毎月の定期的な支出パターンや、手帳・家計簿のメモがあれば十分な補助証拠になります。

Step 2: 当時の「親の認知能力・意思」を証明する

「親から頼まれて引き出した」「親自身が使った」ことを示すため、当時の親の頭がしっかりしていたか(または意思表示ができたか)を確認します。

有効な資料

・医療・介護記録: 病院のカルテ、要介護認定の調査書、主治医の診断書

・本人の記録: 親自身が書いていた日記、金銭メモ、手紙など

Step 3: 「生前贈与」や「親の意思による支出」であることを主張する

もし親から個人名義でお金を受け取っていた場合、それが「勝手な引き出し」ではなく「親からのプレゼント(贈与)」であったことを説明します。

契約書がなくても、「いつもありがとう」と書かれた手紙や、LINE・メールのやり取り、当時の状況の文脈から正当性を主張します。

知っておくべき法的手続きの違い(調停と裁判)

話し合いで解決しない場合、法的な手続きに進みますが、ここで押さえておくべき重要な法的ポイントがあります。

重要:使い込み問題は「遺産分割調停」の直接の対象外

家庭裁判所で行う「遺産分割調停」は、亡くなった時点で存在する財産をどう分けるかを話し合う場です。 亡くなる前の「使途不明金」について争う場合、原則としては地方裁判所での「不当利得返還請求訴訟」という別の裁判手続きが必要になります。

遺産分割調停

・扱う機関:家庭裁判所

・扱う内容:死亡時に残っている遺産の分け方を決める

不当利得返還請求訴訟

・扱う機関:地方裁判所

・扱う内容:生前の使い込みがあったか否かを判決で決める

ただし、相続人全員が合意すれば、遺産分割調停の中で使途不明金の問題もまとめて解決を図ることができます。

自分の身を守る!生前からできる防衛策

現在進行形で親の介護や金銭管理をしている方は、将来のトラブルを防ぐために今すぐ以下の対策をとっておきましょう。

出納帳(財産管理ノート)をつける

「いつ・いくら引き出し・何に使ったか」をノートに記録し、レシートを貼っておく。

現金引き出しを極力減らす

施設代や公共料金、医療費などはできる限り「口座振替」や「振込」を利用し、通帳に履歴を残す。

財産管理委任契約を結んでおく

親の意識がはっきりしているうちに、金銭管理を委任されている旨の書面を作成しておく。

定期的に他の相続人へ報告しておく

「今月は施設代で〇〇万円かかったよ」など、状況をオープンにしておくことが最大の防御になります。

まとめ:疑われたら感情的にならず証拠で対応を

親の介護や世話を頑張ってきた人ほど、「使い込み」を疑われたときのショックは大きいものです。

しかし、感情的に反論すると泥沼化し、相手も「怪しい」と意固地になってしまいます。「当時の記録」「領収書」「医療データ」など客観的な材料を揃え、必要に応じて相続問題に詳しい弁護士等の専門家に相談しながら冷静に対処していきましょう。

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