「義理の母を長年一人で介護してきたのに、いざ亡くなったら『あなたは相続人じゃないから』と遺産が1円ももらえない…」
「兄弟の中で自分だけが親の介護を抱え込んでいたのに、何もしなかった兄弟と同じ割合で遺産を分けるのはどうしても納得がいかない…」
相続の現場で特に感情的な対立を生みやすいのが、この「介護や看護をめぐる不公平感」です。
シリーズ第3弾となる今回は、介護の貢献を正当に評価し、不公平を解消するための制度「特別寄与」について、実際のトラブル事例を交えて分かりやすく解説します。
トラブル事例:義母を10年介護した「長男の妻・Aさん」のケース
家族構成と状況
被相続人
義母(80代・要介護4)
相続人
長男、次男、長女の3人
実際の生活状況
義母は認知症と身体の不自由から要介護4の認定を受けていました。同居していた長男は仕事で忙しく、日々の食事・排泄・入浴の介助や病院への付き添いなど、介護の大部分を長男の妻であるAさんが一人で担っていました。遠方に住む次男と長女は、年に数回様子を見に来る程度でした。
発生したトラブル
義母が亡くなり、遺産(自宅と預貯金2,000万円)の遺産分割協議が始まりました。
長男の主張
「妻のAが10年間、自分の時間や体力を削って母さんを介護してくれた。その苦労を考慮して、長男家の取り分を増やしてほしい。」
次男・長女の主張
「Aさんには本当に感謝しているけれど、法律上、義理の娘であるAさんは相続人ではないでしょう? 遺産は子供3人で均等(各3分の1ずつ)に分けるのが法律のルールだから、譲れません。」
長男の妻Aさんは「私の10年間の努力や犠牲は何だったのか」と深い孤独感と怒りを抱き、親族関係は修復不可能なほど冷え込んでしまいました。
なぜこのような不公平が起きるのか?
従来(2019年6月以前)の民法では、このようなケースで介護者が報われない構造がありました。
「寄与分」は相続人しか使えない
民法には、被相続人の介護や財産維持に貢献した人の取り分を増やす「寄与分」という制度があります。しかし、これは原則として「法定相続人(配偶者や子供など)」にしか適用されませんでした。
義理の親の介護は「無償の尽力」になりがち
どれだけ長男の妻が身を粉にして介護しても、法律上は「相続人ではない親族」であるため、遺産分割協議に直接参加して請求する権利がなかったのです。
救済策「特別寄与料の請求権」とは?
こうした不公平を解消するため、2019年7月の民法改正により新設されたのが「特別寄与料の請求制度」です。
この制度により、相続人以外の親族(長男の妻など)であっても、条件を満たせば相続人に対して「特別寄与料(金銭)」の支払いを直接請求できるようになりました。
特別寄与料が認められるための主な条件
・被相続人の「親族」であること(6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族)。無償で寄与(介護・看護など)を行ったこと(対価として給与や報酬をもらっていない)。
・無償で寄与(介護・看護など)を行ったこと(対価として給与や報酬をもらっていない)。
・「特別の寄与」と言えるレベルであること(単なる親族間の助け合いを超え、要介護2〜3以上の継続的な介護など)。
・被相続人の財産の維持・増加につながったこと(施設入所費やプロのヘルパー費用を節約でき、財産が減らずに済んだ)。
介護の苦労を無駄にしない!トラブルを防ぐ3つの対策
「特別寄与料」は請求できるようになりましたが、金額の折り合いがつかず調停や裁判に発展するケースも少なくありません。不公平感を防ぎ、円満に解決するための対策を事前に講じておくことが重要です。
1. 【生前対策】被相続人(親)に遺言書を書いてもらう(最も効果的)
親が元気なうちに、介護をしてくれている人へ財産を遺す意思表示をしてもらうのが一番の予防策です。
長男の妻などへ
「遺贈(いぞう)」という形で、財産の一部を渡す旨を遺言書に明記する。
介護を担当する子供へ
「介護の苦労を考慮し、〇〇に多めに相続させる」と指定し、遺言書の「付言事項(メッセージ欄)」に感謝と理由を残して他の兄弟を納得させる。
2. 【生前対策】介護の「記録」と「証拠」を保管しておく
特別寄与料を請求する場合、どれだけの貢献をしたかを客観的に証明する必要があります。
・介護日記・メモ(日付、具体的なケア内容、費やした時間)
・要介護度の認定通知書・ケアプラン
・医師の診断書や看護記録
・介護用品や医療費の領収書
3. 【生前対策】生前贈与や家族信託・死後事務委任の活用
生きているうちに定期的に贈与を受け取るか、契約によって介護の対価を担保する仕組みを作っておくことも検討しましょう。
まとめ
介護は肉体的・精神的負担が非常に大きく、それだけに「報われない」と感じたときの感情的なしこりは長く残ります。
介護をしている方
毎日の記録をしっかり残し、早めに専門家や家族に相談する。
介護を受ける親・周りの家族
「やってもらって当たり前」と思わず、遺言書などの形で感謝を具体的な書面に残す。
お互いが気持ちよく納得できる相続を迎えるために、生前の対策や早い段階での専門家(行政書士、司法書士、弁護士など)へのご相談をおすすめします。

